第9回 ギャラリーカフェオーナー・森田わかなさん/私にちょうどいい、食べられる庭。

2023/07/20 公開 

第9回 ギャラリーカフェオーナー・森田わかなさん/私にちょうどいい、食べられる庭。

writer 石川理恵

人それぞれの「自然とのつながり」をテーマに、この連載ではベランダや庭のあるお家を訪ねます。

第9回目に登場するのは、デザイナーであり、ギャラリーカフェ「HOUSE1891」のオーナーでもある森田わかなさん。

海辺の街で、ハーブを育てながら心地よく暮らす様子を取材しました。

家の前に設えた、小さなハーブガーデン

▲左下の写真に写る夏みかんの木は、上皇上皇后両陛下ご成婚の記念樹として、御用邸のある町内に配られたもの。森田さんがこの家を借りる何十年も前からここに立っています。「毎年3月は、桜の花が咲いて、夏みかんの実が色づき、雛祭りみたいなんです」と森田さん。


海まで歩くこと数分。なだらかな山々に囲まれた神奈川県葉山町の古い一軒家で、森田さんは月のはじめの5日間だけギャラリーカフェをオープンし、暮らしています。玄関のアプローチ沿いに立っているのは、シンボルツリーの夏みかんの木。足もとに、レモンバーベナ、ホワイトセージ、ローズマリーなどのハーブが清々しく葉を茂らせています。

その花壇の脇に、すき間を埋めるような配置でふたつのレイズベッド(イギリス式花壇)がありました。ウッドデッキを修復した際、端材が出たのをきっかけに、設えたそうです。

「畑を借りるのもいいけれど、私にとっては庭先でこのぐらいを育てるのが、手に負えるサイズです。即興で料理をするのが好きなので、ちょっと使いたいなあと思った時に、料理の途中でハーブを摘みにいけるのがうれしくて、“食べられる庭”と呼んでいます」

▲レイズベッドで育てているのは、料理に香りをそえるパクチー、ディル、チャイブなど。オーガニックの苗を、東京・国分寺の「KoHo Herb & Garden」や葉山の「buis」などから分けてもらっています。カラフルな茎のスイスチャードは、「カフェで使うために葉っぱがなくなるほど摘みとっても、ひと月後にはまた生えてくるほど元気」だとか。
▲「フレッシュハーブティにも料理にも大活躍する」というホーリーバジルを、何カ所かに植えています。パクチーがかわいらしい実をつけていました。

体の声を聞きながら暮らす

▲この日の昼ごはんは、夏によく作るというそば粉のガレット。三浦半島の野菜と、庭で摘んだハーブや葉ものとを混ぜ合わせたフレッシュサラダを包みます。


今から15年以上前、森田さんは小学生だったひとり娘を連れて、イギリスでファームステイをしたことがあります。すてきな老夫婦が営むオーガニックの農園を手伝い、お休みの日にはピクニックをして、自然のサイクルとともにある暮らしを少しだけ肌で感じました。

「親として、子どもに残してあげられるものは何もないけれど、体験だけは残してあげたかったんです」

その後、仕事が楽しくてオーバーワークしたり、体調を崩したりとさまざまな時期を経て、今では自分自身の体の声を聞きながら毎日を送れるように。気候のいい時季の朝は海で泳ぎ、空腹になったら体が喜ぶ料理を食べて、時に海辺で沈む夕陽をながめ、夜はぐっすりと眠る。そんなサイクルで暮らしていると、いつもハッピーでいられるのだそうです。

▲海老を蒸す時、イチジクの葉を敷くと、ほんのり甘い香りが移ってごちそうに。
▲「ヤングコーンのひげをピクルスにしたんです」と森田さん。料理は思いつきで作るのが好きだと話します。

大切なのは、心地よくあること

▲室内にはさまざまな観葉植物が並びます。とくに好きなのは、コウモリランとも呼ばれるビカクシダ。左下の写真、「この丸い葉っぱはビカクシダの『貯水葉』といって、青々としているのは元気な証拠なんですって。うちの環境に合っているんだなあと思うとうれしくなります」


心地よく暮らしたい森田さんにとって、日々掃除をし、風を通して家のなかを整えるのも、大切にしている習慣のひとつ。そして、空間の居心地のために欠かせないのが植物たちです。

「植物は、どれだけあってもジャマになるどころか、重なり合うことでますます心地よさをもたらしてくれます。育たないことがあったとしても、それも自然です。コントロールのできないことに向き合っているから、植物に関わっていると『絶対にこうしなくちゃ』のようなものがなくなっていくんですよね」

料理の味つけから、旅の行く先、仕事の選択まで、何事も「感覚で決めるほうがだんぜん楽しいし、うまく進みます」と話す森田さん。自然とともにある暮らしは、直感を研ぎ澄ますことにつながっているのかもしれません。

▲部屋のあちこちに、折れた花などを飾っています。右の写真のベゴニア マクラータは、すごく丈夫ですぐに根を伸ばすのだそうです。「水玉模様が個性的で、可憐な花を咲かせるんですよ」
▲窓辺に飾られた白い絹糸のオブジェは、「繍 nuito」の作品。蚕を育て、その繭からとった糸で制作しているそうです。
▲このコットンの布たちは、スカーフとしても暮らしの道具としても活躍する、カンボジアの万能布「クロマー」。すべてカンボジアの女性にたちによる手織りのものを、森田さんが主宰する「クロマニヨン」でフェアトレードにより販売しています。

撮影/砂原文
取材・文/石川理恵

プロフィール

森田わかな(もりたわかな)

デザイナー・ギャラリーカフェオーナー

カンボジアの伝統的な万能布、クロマーをプロデュースする「クロマニヨン」主宰。また、毎月はじめの5日間、神奈川の葉山一色にて、ギャラリーカフェ「HOUSE1891」をオープン。長岡式酵素玄米を主役にした、野菜中心の創作デリを提供している。https://krama100.com/

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