第3回 文筆家・ツレヅレハナコさん/非日常の旅が、日常の食生活を豊かにする

2023/11/30 公開 

第3回 文筆家・ツレヅレハナコさん/非日常の旅が、日常の食生活を豊かにする

writer 加藤郷子

非日常がつまっている「旅」と、日常があふれている「暮らし」。

そんな旅と暮らしの関係を、ご自宅での暮らしぶりをのぞかせていただきながらひもとく連載。

第3回目は、とにかく旅を愛し、フットワーク軽く、あちこちに出かけているツレヅレハナコさんにお話をうかがいます。

▲右上のタジン鍋は、モロッコから大事に持ち帰ったもの。
▲世界各地を旅して購入した鍋。家を建てたときは真っ先にこの棚を建築家にリクエスト。

知らない味を探すために、旅に出る

好きだと思ったら、猪突猛進。ガッ!とのめり込むタイプの、ツレヅレハナコさん。そして、その好きなもの、好きなことと出会ったら、とにかく発信をする。発信を続けるうち(当初はブログ、そして今はインスタグラム)、ハナコさんがシェアする「好き」に共感する人がどんどん増え、すっかり人気の文筆家となりました。

そんなハナコさんのエネルギッシュさの源はどうやら旅にあり、「好き」と出会うのも、旅きっかけが多いようです。

家に飾られているものや、使われているキッチン道具に話を向けると、出会いの多くは旅先です。

例えば、リビングの一角に飾られている、ハナコさん宅のアイコン的存在になっている猫の絵には、インドで出会いました。ズラッと並んだ鍋は、トルコだったりモロッコだったりから、かかえて帰ってきたものです。

▲インドを旅していたとき、噂に聞いていたタラブックスという小さな出版社が近くにあると気づき、突然訪ねてみることに。購入もできたので、猫好きのハナコさん即決。
▲食器棚には青森で出会い、帰宅してきちんと採寸をしてから購入を決め、送ってもらったそう。

「ものとの出会いも楽しいですが、私にとって旅のいちばんの目的は、『知らない味を探しに行く』こと。旅は、自分の食生活を豊かにしてくれる存在だと思います」とハナコさん。旅に出ると、ハナコさんの食アンテナは、日常よりさらに感度が高くなるようです。

「頭では知っているつもりの知識でも、やっぱり体験すると違うんです。とくに日本国内は知ってるようで知らなかった。若い頃は、国内は知ってるから旅する必要はないと思っていたけれど、傲慢だったと感じます」

旅先で出会った食材や調味料も、ハナコさんの暮らしの中に入り込んでいます。

「めんつゆは、東北のお母さんたちの台所で食べさせてもらってから、こればっかり使ってしまって、自分に禁止令を出したこともあるくらい(笑)一般的なものよりも少し甘めで5倍濃縮。おどろくほど一発で味が決まるのです。

東北では肉の代わりに使われ、よく出てくる仙台麩(揚げ麩)には、土地の知恵がつまってるなと感じます。どちらもすっかりわが家の定番になりました」

▲旅先で購入して、日々の暮らしで使っている食材いろいろ。右から2番めの「味どうらくの里」という名のめんつゆは欠かせないものになっています。
▲仙台麩は、すっかり常備食材に。肉の代わりに使って親子丼のように仕上げれば、なにもなくても簡単な一品に。

旅で買ったもので友人をもてなす、までが旅

ハナコさんの旅好きの原点は、18歳のときに行った台湾旅。

「一冊の本がきっかけでした。旅のスクラップブックのような本で、屋台料理がたくさん載っていて。そのうえ、1皿180円とか、価格まで書いてあったんです。これなら自分でも行ける!となりました」

自分のペースで食べたいからと、18歳にしてひとり旅! そしてやっぱり食べることが目的なのが、ハナコさんらしさです。

「何を食べてもおいしいし、台湾の人がやさしくて、すっかり味をしめました」

▲『台湾まんぷくスクラップ』(浜井幸子著)が、18歳でのひとり旅のきっかけ。ネット社会の今も、旅の前にガイドブックと関連本は必ず購入。

以来、20代はあちこちへ。欧米にも行きましたが、ハナコさんが惹かれるのは、圧倒的にアジアや中東。タイ、モロッコ、トルコ、ウズベキスタン、インド、スリランカ……と、たくさんの国名が挙がります。

「知らない味を探しに行きたいというのと、スクラップ&ビルド的なエネルギーに惹かれるんでしょうね」

どこへ行っても料理を教えてくれる人を探して、台所にお邪魔したり、参加したり、日本でいう益子のような器の町を旅のルートに組み込んだり。

「スリランカはまったく当てがなかったので、日本のスリランカ料理屋さんに食べに行って、お店の方に料理上手な現地の方を紹介してもらいました」。どこまでも、食に対して情熱的です!

知らない味を探し、そこで出会った食材や調味料、そして調理器具と器をかかえて持ち帰る。そこまですべてがセット。さらに、「家でそれらを使って料理をし、友人たちをもてなすまでが、私の旅です」。

コロナ禍で海外旅はご無沙汰しているというハナコさん。ここ数年は、国内をかなり精力的に旅していますが、そろそろ海外への旅も復活かも? ツレヅレハナコさんの旅と暮らし、どこまでも密接しながら、今後も続いていきます。

▲左手で持っているのがウズベキスタン、右がモロッコとインドで購入してきた器。
▲左はモロッコ、右は韓国で購入した手付きのざる。購入した器や鍋、台所道具はずっと暮らしの中で活躍しています。
▲「実用性のない郷土玩具的なものも好き。見てかわいいし、その土地の思い出が蘇るので、専用棚を作りました」

旅のおすそわけ写真①

▲一般の家庭にお邪魔して料理教室をしてもらうことが多い。ウズベキスタンにて。(写真:ツレヅレハナコさん提供)

旅のおすそわけ写真②

▲市場(露店含む)、器店、荒物店。左上から時計回りで、ウズベキスタン、スリランカ、ベトナム、スリランカにて。(写真:ツレヅレハナコさん提供)

\おまけ/

▲今回の取材後に、ハナコさんが「見つけた!」と送ってくれた写真。20年以上前に購入したという、タイのローカルな情報が掲載されたコピー。バンコクの日本人がよく出入りする店で売られていて、この情報をもとに旅をしたそう。インターネットが身近ではなかった時代ならでは! (写真:ツレヅレハナコさん提供)

撮影/松元絵里子(ツレヅレハナコさん提供分以外)
取材・文/加藤郷子


プロフィール

ツレヅレハナコ

文筆家

食と酒と旅を愛する文筆家。出版社勤務時代に呑み&食べ歩きブログを始め、以来、自分のアンテナでキャッチした「好き」なこと&ものを発信し続けている。近著に『47歳、ゆる晩酌はじめました』(KADOKAWA)。『ツレヅレハナコのおいしい名店旅行記』(世界文化社)、『ツレヅレハナコの南の島へ呑みに行こうよ! 』(光文社)など、旅の本も上梓している。Instagram:@turehana1

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