writer 加藤郷子
非日常がつまっている「旅」と、日常があふれている「暮らし」。
そんな旅と暮らしの関係を、暮らしをのぞかせていただきながらひもとく連載。
第4回目は、小学2年生の長男と保育園年長の次男を連れて、家族で頻繁に旅に出る本多さおりさんのお話です。
旅という経験が、日常を格上げしてくれた
▲真ん中の鉢は、大谷石で作られたもの。子どもたちと出かけた大谷資料館(栃木)で購入。アクティブ盛りの男子2人の子育て真っ最中。楽しいながらも翻弄される日々が続き、あっという間に一日が過ぎていくと話す本多さん。
「家でのんびりしようと思っていたところで、子どもはほおっておいてはくれません。そして家にいる限りはどうしたって、家事も気になります」
整理収納コンサルタントという仕事柄、家は片づけやすく整っていますし、ラクに家事を回すための工夫はいっぱい。それでも、パワフルな子どもたちとの日々を乗り越えるためには、本多さんにとって旅は、必要不可欠です。
「今日決めて、明日旅に出る」こともあれば、子どもを連れて遊びに出かけ、「そのまま泊まってしまおう!」というふうに始まる旅もあるのだそう。
▲旅の準備中の本多さん。荷物の取り回しがラクなので、1泊でもキャリーバッグで出かけます。 それが現在進行形の旅の楽しみ方。でも、夫婦ふたり暮らしの頃は、ちょっと背伸びをしたホテルや宿に泊まりに行くのが大好きで、宿自体を楽しむことが、旅の大きな目的でした。まずは、そんな旅のお話から。
「栃木県那須にあった憧れのホテルに、思いきって泊まったのがきっかけ。『こんな世界があるんだ!』と開眼。自分の価値観が変わるような体験ができたから、いいホテルに泊まることは、お金をかけるに値すると感じました」
▲旅先で魅了された大谷石。リノベーション時に玄関の壁に採用。ホテルのエントランスで使われていて、すてきだと感じた大谷石。旅館で体験した障子を通した光の美しさや、畳のモダンな使い方。ただ通り過ぎるだけでなく、宿泊するからこそ、インテリアのディテールまでもが体験として自分の中にずっと残っていきました。
そこから、たくさんのヒントをもらい、自宅リノベーションへとつながります。玄関には大谷石を使い、障子や畳をインテリアに取り込みました。つまり、旅で体験したことが、現在の日々の暮らしを格上げしてくれているというわけです。
▲子どもが生まれる前、ひとり京都旅に出かけて購入した、広川絵麻さんの器。この旅では、夫婦の茶碗を探すと決め、あちこち見て回りました。旅がなければ、やってられない!
大人だけののんびり旅を満喫していた本多さんですが、子どもが生まれて元気に走り回るようになると、まったく違う旅が始まりました。高級なホテルは、まわりの人に気をつかってかえって気疲れするので、気持ちを切り替えたのです。
近場を中心に、キャンプ場併設のホテルや休暇村を利用したり、一棟貸しのバンガローを活用したり。子どもをレジャーに連れていく延長で、別のタイプの旅を楽しむようになりました。
「子どもたちにたくさん旅を体験させててエライね、なんて言っていただくこともあるんです。でも、そんな立派な目的じゃないんですよ。子どもたちと家にずっといるのが、私が無理なんです!」
旅に出なければ、暮らしが回せない。パワフル&やんちゃ盛りの子どもたちとの日々には、それくらいの切迫感が! 「子どもが家でのんびりしてくれるなら、それはそれでうらやましいです」と苦笑します。
▲旅に欠かせない3種の神器。子どもたちがこれがなければ落ち着かないというブランケット「パシーマ」と、ゲーム機(宿のテレビにつなげるためのコードも一緒に)、お気に入りの香りでほっとできるルームスプレー。旅に出るほうが大変、かえって疲れちゃうという声もありますが、そこは持って行くものを考え抜き、旅する場所を吟味することで、なんとかすると考えている本多さん。
仕事柄、日々、これは本当に必要かを見極めながら暮らしているので、旅に持っていくものを選ぶときも同じ。究極にミニマムでもなく、かといって過剰にも持たず。必要なものを適正な量だけ持って出かけます。持って行くものをつどつど見直しながら、ベストな解を探し、快適に旅ができるようになっていきました。
▲まるで旅館のような雰囲気の本多さん宅。旅で得た知見がリノベーションに生かされています。「家でも旅でも、子どもを遊ばせてごはんを食べさせ、お風呂に入れて寝かせるというところは変わらない。でも、家事はしなくていいし、子どもに気持ちを集中できます。やっぱり旅があるから、私は日常をがんばれます」
ときには、お母さん業をお休みするため、ソロ旅としてホテル滞在をすることもあるといいます。夕飯を子どもたちに食べさせ、あとは夫に託し、近所のビジネスホテルでチェックアウトまで。本当に短時間なうえ、旅というにはかなり近場ですが、そのリフレッシュ効果は、絶大なのだそう。
旅と暮らしの関係性。そのときどきのライフステージによって変わるものですが、本多さんは、旅から多くのものを受け取りながら上手に日常に取り入れています。
旅のおすそわけ写真①
▲左/ホテルの外観に大谷石が使われていた栃木・那須にあったホテル。ここで大谷石の魅力に気づいたそう(現在は別のホテルグループが運営)。右/福島にある「ホテリ・アアルト」。縁なしの畳、低く暮らすインテリアなど、本多さん宅を彷彿とさせる雰囲気。写真:本多さおりさん提供
旅のおすそわけ写真②
▲左/親も子も満足できる宿を探していて出会った「休暇村奥武蔵」(埼玉)。川遊びや子ども向けプログラムなどもあり、子連れには最高の宿だそう。右/友人家族と何度もリピートして泊まった「センタービレッジキャンプ場」のバンガロー(山梨)。写真:本多さおりさん提供
旅のおすそわけ写真③
▲子どもがくつろげる宿という視点で宿を選ぶので、子どもも思いっきり遊べる。左は「タカオネ」(東京・高尾)、右は「MUJI HOTEL GINZA」(東京・銀座)写真:本多さおりさん提供
撮影/松元絵里子(本多さおりさん提供分以外)
取材・文/加藤郷子
- プロフィール
保育園年長、小学2年生の男子2人と、夫との4人暮らし。オンラインの収納相談を行うかたわら、収納や片づけ、子育て、もの選びなどに関する書籍を執筆。「生活重視ラク優先」がモットー。近著は、まさに旅がテーマで、『旅は暮らしの深呼吸』(集英社クリエイティブ)。ほかに『あるものを活かして愛着のある部屋に育てる』『私をあたらしくする51のこと〜暮らしと自分アップデート』(ともに大和書房)など、著書多数。Instagram:@saori_honda