第6回 スタイリスト 久保百合子さん/「BTS推し」からはじまった旅も、最終的には自分流

2024/02/29 公開 

第6回 スタイリスト 久保百合子さん/「BTS推し」からはじまった旅も、最終的には自分流

writer 加藤郷子

非日常がつまっている「旅」と、日常があふれている「暮らし」。

そんな旅と暮らしの関係を、暮らしをのぞかせていただきながらひもとく連載。

今回は、料理本や雑誌の料理ページなどで、食卓まわりのスタイリングを専門に活躍する久保百合子さんに、旅のお話を伺いました。推しから始まって、ここ数年は、ズブズブっと韓国旅の沼にハマっているようです。

食卓の音から感じる、旅の気配

▲韓国のドラマやドキュメンタリーを見ていると、ソジュ(韓国焼酎)を呑みたくなるという久保さん。

「ソジュ(韓国焼酎)を注いだちょっと無骨なグラスを『乾杯!』と重ね合わせたときの、どことなくチープな音がたまらなく好き」と、韓国旅で出会った音について、なんとも愛おしそうに語ってくれた久保さん。

「それからカトラリーのカチャカチャする音も。カトラリーって、国によって素材も形も違うから、ちょっとずつ音も違って、そんな音を聞いていると旅に来た〜って思うんです」

食卓の音に旅の情緒を感じるなんて、さすがはフードスタイリスト。日々、器やカトラリーに触れながら、料理や料理家に合わせた世界観を食卓に作り上げているだけあって、旅先でもディテールへの感度がとても高いようです。

▲左:ソウルで購入したアンティークの木台には花を 右:韓国で購入してきた皿が食器棚の中に

久保さんが今、夢中なのは韓国。ご多分にもれず、コロナ禍に大ファンになったBTSがきっかけだそう。

「1回もアイドルを好きになったことがなかったから、とにかく盛り上がって(笑)。今まで知らなかった楽しい世界がそこにはありました」

BTSからドラマへ。そして、そのまま韓国文化へと興味がどんどん広がり、ついに韓国語を学び始めること2年。次回の旅は、なんと2週間を予定しています。

好きになると何度もその地を訪ねるのが、久保さんの旅の流儀。

「スペインには10年ほど、毎年通っていました。国内は京都。こちらは今も年に数回、旅をします」

スペインを旅するようになったきっかけは、サッカーだったそう。お目当てのチームの試合をめがけて旅のスケジュールを決め、スペイン語も学ぶ。もちろん、食べることが大好きなので、食情報もたくさん集めて。

「当時はスペインのバスク地方が人気だったこともあって、雑誌などでもよく特集されていたし、友人たちもよく出かけていたから、相乗効果もあったかな」

▲スペインに通っていた頃に購入して帰ってきたかごに、韓国語の勉強セット一式を。

韓国であれ、スペインであれ、言葉を学んだり、映画や本、配信動画などからヒントをもらって妄想しまくったり。現地の料理を自宅で再現することにトライすることも。暮らしの中でもその土地に「ハマる」のが、久保さん流。日常の中でも、旅する楽しみを取り入れるのです。

▲小説、食文化の本、画家のエッセイなど、韓国に関する本も読んでいるそう。
▲ソウルの荒物屋で購入した平ざるが大のお気に入り。サイズもたくさん持って日々活用。

どの旅先でも、“宝探し”を続けている

「地方に住んでいた頃、憧れていた東京を雑誌を片手に歩き回った旅と、基本的には変わらないのかもしれません。『宝探し』をするみたいに、街を夢中で歩き回ってました。

今もやっぱり、旅先で宝探しをしている気がします。宝=モノという意味ではなく、そこでしかできない体験を含めた宝探しです」

▲韓国の手仕事であるポジャギ。光を通すと美しいのでカーテンに

だから旅に出る前には、食べたいもの、見たい建物や美術館、行きたいショップなどを、どんどんリストアップ。仕事柄、旅好きの食いしん坊の友人知人が多いので、情報も自然に集まってきます。

「事前に抜かりなく調べて、やりたいことをコンプリートしたいという気持ちはあるんです。でも、バスを乗り間違えてあたふたしたり、早起きして行くつもりの場所に寝坊して行けなかったり。結果的にできなくても、それも旅。失敗も楽しいです」

道がわからなくなった挙げ句に路地に迷い込んで、現地の人しか行かない店を見つけ、その空気感に酔いしれる。衛兵交代の儀式を飽きることなく、毎回見学する。電車の乗り換えの自分なりの攻略法を見つけることだって、お宝。そんなふうに、旅先でいつも宝探しを楽しんでいます。

もちろん、食材や調理器具、食器まで、モノとしてのお宝もたくさん見つけて、自分へのお土産にし、旅前同様、帰宅後もまた、旅を日常に取り入れながら暮らします。前と後、どちらも楽しみながら、久保さんの旅のループは、これからもずっと続くのです。

▲「現地で食べる韓国料理って、本当においしいですよ〜。辛くないやさしい味のものもいっぱいあります」
▲ソウル土産の調味料や、塩壺などが、台所に並ぶ様子。
▲作りおいている韓国常備菜でビビンパプ。たんぱく質がなくても、大満足の味わい。
▲旅の後には、必ず、旅ノートを作る。「めんどうくさくて、辛いんですけど」と言いながらもやめられない習慣。

旅のおすそわけ写真①

▲韓国を旅して、久保さんが惹かれるもののひとつが壁のデザイン。これも宝物としてコツコツ撮りためています。(写真:久保さん提供)

旅のおすそわけ写真②

▲大好きな冷麺は旅の間、何度も食べます。「韓国は卵を盛るとき、黄身は必ず下なんです」と、何度も食べることによる気づきもあります。(写真:久保さん提供)

撮影/松元絵里子(久保百合子さん提供分以外)
取材・文/加藤郷子


プロフィール

久保百合子(くぼゆりこ)

フードスタイリスト

雑誌や書籍などで、料理まわりのスタイリングを手がける。そのときのテーマや料理家のスタイル、そして料理そのもののことを考えて世界観を作り上げる力に定評がある。夫と2人暮らし。Instagram:@cubocin

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